戦略ノート

your strategy, your life

計測が可能で、ある程度は値が動くことが条件

「中小企業向け シンプルな人事評価制度」を作成する際には、売上ではない、会社の戦略として全社一丸となって追い求める「戦略指標」を探すことが第一歩となります。

そして、戦略指標には、次のような性質が求められます。

  • 指標値を改善させようとするとおのずと戦略が実施されること
  • 社内の各部門が共通で使えること
  • 計測可能であること(できれば計測しやすいこと)

ここでは、三番目の「計測可能であること(できれば計測しやすいこと)」という点について考えます。

計測が可能で、ある程度は値が動く指標

例えば、私がダイエットしようとしたら、まずは現在の体重を測定します。

一般によく言われることですが、計測できないものは、改善のしようがありません。計測しないことには、改善できたかどうかを判断できないので当然です。

戦略指標は、日々、その値をモニタリングしながら、日常業務を進める拠り所になるものですので、計測可能であることが大前提です。

そして、日常的に用いるものですから、大掛かりな調査が必要で、その計測・集計に労力・時間がかかってしまうというのでは困ります。

決算数値は、決算後2ヵ月以内に集計する必要がありますが、「指標値は2ヵ月以内に計測・集計します」というのでは遅すぎます。

もちろん、センサーなどを使って、瞬時に、自動的に計測できる必要はありませんが、それほどの手間がなく(対象となる出来事が起きてから遅くとも1週間以内)集計できるものが求められます。

また、戦略指標は、その値がある程度動くものであることが必要です。

全然、値が動かないとなると、「どうせ変わっていないでしょ」ということで、指標値を確認する意欲が失われます。

私はサッカーが好きなのですが、「サッカーは、なかなか点が入らないので退屈」という声を聞くことがよくあります。

サッカーに対する理解が深くなれば、点は入らなかったけどおもしろい試合だったということはありえます。サッカーの本場ともいえるヨーロッパでは、多くの敵に囲まれていた場面を個人技とパス交換でうまく打開した場合など、直接得点には関係ない部分でも大きな拍手が起こったりします。

とはいえ、90分間まったくゴールが生まれないのであれば、「点が入らない(指標値が変化しない)から退屈」という主張にも一理あるように思います。

ちょっと話が脱線しましたが、より多くの人の関心・興味をひくためには、それなりに指標値には動いてもらわないと困ります。

基本的には、四半期に1回以上は値が動くものが望ましいでしょう。

ただし、たとえば○○高校、△△大学の合格者数など、年に1回、しかも特定の時期にしか値が動かない場合も想定されます。

そのような業種において戦略指標を設定する場合は、他に適切な指標が思いつかなければ、合格者数などを採用するのも致し方ないかなと思います。

「年に1回しか値が変わらないのでは日常業務に結び付けにくいので不便」ということであれば、もう少し複雑な指標を設定することも考えられます。

たとえば、学習塾・予備校であれば、もう少し短期的に値が動く指標として、「合格が期待される人数」なども考えられるのではないでしょうか。

たとえば、模試の判定がB判定以上(ここでは、A判定からE判定の5段階で評価され、A判定が合格の可能性が最も高いと考えます)の生徒の数を「合格が期待される人数」とみなします。

この指標であれば、年1回しか指標値が動かないということもありませんし、指標値が改善していけば、本番で見事合格を勝ち取る人も増えそうなので、日常業務を進める上での拠り所にできそうです。

「合格者数」のように象徴的だけれどもなかなか動かない指標と、「合格が期待される人数 (より端的に、B判定以上の人数という指標名でもよいかもしれません) 」のように動きやすい指標を併用するというのも有力かと思います。

パターン別に考える指標の設定方法・計測方法 

繰り返しになりますが、当社がおすすめする戦略指標の基本形は下記のとおりです。

  基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の数
= お客さま総数 × 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の割合(基準ラインクリア率)

ここで、基準ラインをクリアするとは、たとえば予備校であれば志望校に合格するといったことでしょう。ダイエットを目指すパーソナルジムであれば目標体重を下回るということかもしれません。

予備校であれば当然合格者数は計測するでしょうし、パーソナルジムであれば利用者の体重は日々チェックしているでしょうから、戦略指標の値は計測しやすいでしょう。

ただし、なかにはお客様が基準ラインをクリアしたかどうかがはっきりしないビジネスもあります。

ここでは、サービス提供側が「サービス利用者の属性(お客さまは誰なのか)」、「サービス利用者の価値享受状況(お客さまは価値を享受してくれたのか)」の二つを把握できているか否かによってパターン分けを行い、戦略指標の設定・計測方法を考えてみます。

「サービス利用者の属性」を把握できているとは、要するに「お客さまが誰だかわかっている」という意味です。BtoBの場合や、BtoCでも会員制であったり、お客さまがお名前を登録した上で利用するサービス(ホテルなど)の場合は、サービス利用者の属性が把握できていると考えられます。

一方、「サービス利用者の価値享受状況」を把握できているかは、例を挙げたほうがわかりやすいでしょう。たとえば、「長期的スパンでお客さまの大事な資産を増やします」という価値を提供するA投資信託サービスがあったとしたら、その価値をお客さまが享受したかどうかは、運用結果を見れば定量的に把握することができます。目標以上に運用益が出ているのであればお客さまはA投資信託が提供する価値を享受できていると考えられますし、損失が出てしまっているのであれば価値は享受できていないと言えるでしょう。

これに対して、「快適な滞在」という価値を提供するBホテルの場合、宿泊してくれたお客さまが価値を享受した(快適に滞在した)かどうかは、表情などからある程度推察することはできるかもしれませんが、定量的に把握することは難しいでしょう。

このように、「サービス利用者の属性」、「サービス利用者の価値享受状況」を把握できているかどうかでサービスを分類すると、次のように整理できます。利用者が誰だかわからないのに利用者の価値享受状況は把握できているということはありえないので、全3タイプとなります。

タイプ 利用者属性の把握 価値享受状況の把握 サービスの例 戦略指標の設定・計測方法案
A:利用状況把握型 資格学校、投資信託、ソーシャルゲーム、SaaSサービス 実際の価値享受状況
B:利用者特定型 ホテル、雑誌定期購読、旅行会社、会員カードのあるスーパー 利用者アンケート(全数調査)結果で代用
C:利用者不特定型 飲食店、駅の売店、スキー場 利用者アンケート(サンプリング調査)結果で代用

タイプAは、利用者の属性、価値享受状況ともに把握できている場合です。たとえば、資格試験合格を支援する資格学校にとって、学生は当然把握していますし、何人の学生が資格を取得できたのかも比較的容易に把握できるでしょう。

上で例に挙げた、投資信託の場合もタイプAに分類されるでしょう。このタイプの場合は、把握できている価値享受状況をもとに、戦略指標値を計測(集計)できます。

タイプBは、利用者の属性はわかっているものの、利用者が価値を享受したかどうかは把握できないような商品・サービスが分類さます。こちらも例として上述した「快適な滞在」を約束するホテルの場合、価値享受状況自体ははっきりとわからないので、それをそのまま価値基準にすることは難しいでしょう。そのような場合は、全てのお客さまを対象に、価値を享受してもらえたかを問うアンケートをお願いすることが考えられます。

タイプCでは、そもそも利用者が誰であるかすらわからず、利用者が価値を享受したかどうかも、直接的に把握する術がありません。このような場合は、全てのお客さまにアンケートをお願いすることは不可能ですので、サンプリング調査的に利用者アンケートを実施するというのが現実的なところでしょう。

たとえば、「食材の新鮮さ」という価値を提供するレストランであれば、「新鮮さに対する満足度が80%」などを価値基準として設定することになるでしょう。なお、アンケートでは、提供する価値に関する項目(この例では新鮮さ)と、それ以外の項目(たとえば店の雰囲気)を混在させた質問形式にすることによって、戦略が機能しているかを確認するとよいでしょう。単に、全体の満足度だけを質問すると、何故満足しているのかわからなくなってしまいます。新鮮さをウリにしていたつもりなのに、実は低価格にひかれてお客さまが来ていたということもありえます。

タイプAのように「実際の価値享受状況」が把握できればもっとも信頼性の高いデータとなりますが、タイプBやCのように代用的な価値享受状況であっても何もないのと比較すれば雲泥の差です。

また、実際の価値享受状況が把握できるタイプAの場合でも、利用者アンケートを併用することによって、データの信頼性をより高めることができるでしょう。

 ユアスト 江村さん

ユアスト 江村さん

業種別の戦略指標の設定・計測方法案の一例を、下表に示しますので、参考にしていただければ幸いです。

サービス提供例 戦略指標の設定・計測方法案
タイプ:業種 提供価値例 戦略例(強み) 属性把握 価値享受状況
把握
A:
投資信託
(うちを使えば)長期的にお客さまの資産が増えます 長期分散投資、システム化によるコスト削減 ◯:運用成績を把握 【実際の価値享受】
3年間で5%資産を増やす
A:
ピアノ教室
(うちで練習すれば)1年間でベートーベンが弾けるようになります 有名ピアニスト講師、楽しく続けられる雰囲気 ◯:上達レベルを講師が把握 【実際の価値享受】
1年以内に実技試験に合格
A:
コピー機販売
(うちのコピー機は)めったに故障しません 自動予防保全機能搭載 ◯:エラーによる停止時間、修理要請回数を把握 【実際の価値享受】
1年間の停止時間が1時間未満
B:
ビジネスホテル
(うちに泊まれば)快適に滞在できます 大浴場、高品質ベッドと枕、アロマ ✕:表情は快適そうだが内心はわからない 【全数アンケート】
宿泊の快適性に関する満足度90%
B:
定期購読雑誌
(うちの雑誌を読めば)業界での仕事を有利に進められます 国内外の充実した取材ネットワーク ✕:満足度はもとより、読んでいるかもわからない 【全数アンケート】
記事の専門性に関する満足度80%
C:
和風居酒屋
(うちの魚は)静岡の漁港から直送しているから新鮮でおいしいですよ 漁業者や農家との関係、高速インター近くの立地 ✕:おいしそうにはしてるが内心はわからない 【サンプリングアンケート】
食材の新鮮さに関する満足度80点以上

まとめ

  • 戦略指標は計測可能である必要があり、それほどの手間がなく(1週間以内)集計できることが必要。
  • 戦略指標は四半期に1回以上は値が動くものが望ましい。
  • タイプ別の戦略指標の設定・計測方法案は、次のとおり。
    A 利用者・利用状況とも把握 ⇒ 実際の価値享受状況を集計
    B 利用者特定・利用状況は不明 ⇒ 利用者アンケート(全数)をもとに集計
    C 利用者不明・利用状況不明 ⇒ 利用者アンケート(サンプリング)をもとに集計