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published 2023.06.05 / update 2023.06.26

残業する人を評価する? 残業をしない人を評価する?

残業する人を評価する? 残業をしない人を評価する?

中小企業の社長さんから、残業問題に関してご質問をいただきました。

当社は従業員約80名の会社です。
これまで当社では、「残業を多くする人のほうが、定時に帰る人よりも仕事に対して熱心である」とポジティブに評価され、残業代という形で金銭的にも還元してきましたが、最近は、「残業を多くする人を評価する企業は時代遅れ」などと言われることも増えてきたように感じます。
日中だらだらと仕事をして遅くまで残業している人のほうが、集中して仕事をこなして定時で退社する人よりも、給与が多くなる(残業代によって)のは確かにおかしいと思います。
一方で、残業を多くしている人のほうが、難易度の高い案件に取り組み、会社にとって成果を上げている場合も少なくありません。
残業する人、残業をしない人のどちらを評価すればよいのでしょうか?

残業そのものではなく労働生産性で考える

残業に関しては、中小企業の経営者さんからよくご相談を受けるテーマと言えます。

日本においては、高度成長期から1980年代後半のバブル期にかけて、経済が成長し、働けば働くほどビジネスパーソンの収入も増えるような状況にあったと言えます。また、終身雇用制のもとで、新卒で入社した会社に尽くすことが当たり前であり好ましいことであるといった風潮がありました。

そのため、朝から晩まで、場合によっては休日返上で働くビジネスパーソンも少なくありませんでした。

しかし、バブル崩壊頃から、長時間労働によって心身の健康を損なったり、最悪の場合は過労死に至るなど、残業の負の側面がクローズアップされるようになってきました。

一方で、その反動から、近年では「残業=悪」、「残業は仕事ができない人がやることだ」といった偏った考え方もよく耳にするようになってきました。

ここでは、「生産性(労働生産性)」を切り口に、残業(勤務時間)をどのように評価すべきか考えてみます。

労働生産性は、堅苦しい表現を用いれば、労働投入量1単位当たりの産出量を示す指標で、「付加価値額/従業員数」など、検討の目的にあわせて定義されることが一般的ですが、ここではビジネスの現場で直感的に理解しやすいよう、「成果/労働時間」と考えることにします。

分子にあたる「成果」と、分母にあたる「労働時間」を切り口に、従業員をタイプ分けしてみます。

ここでは、あまり複雑にしないように、成果については○(大きな成果)と△(ある程度の成果)の2タイプ、労働時間に関しては○(残業ほとんどなし)・△(20時間程度の残業)・×(著しい残業)の3タイプに分けて整理を試みます。

労働時間(残業時間)
〇 ほぼ0  △ 20時間程度  × 著しい残業 
成果 〇 大きな成果 【タイプ1】
スーパー社員
【タイプ2】
一定の残業をしながら、大きな成果を上げる「優秀」なスタッフ。
【タイプ3】
本人は頑張っているが、働き方に改善の余地がある。
△ ある程度の成果 【タイプ4】
育児・介護等を優先している人などが該当しやすい。
【タイプ5】
知識・スキル・経験不足などにより、ある程度の成果をあげるために時間がかかっている。
【タイプ6】
場合によっては、残業代を稼ぐためにだらだら仕事をしている可能性がある。

タイプ1は、ほぼ残業もしないで大きな成果を上げているスタッフで「スーパー社員」とでも呼んでよさそうな人材です。100人規模の会社であれば、全社で数人くらいはいるかもしれません。

タイプ2は、ある程度(月20時間程度)は残業をするものの、大きな成果を上げているスタッフで、このタイプの優秀な人材は多くの会社にいるかもしれません。

タイプ3は、大きな成果を上げてはいるものの、いかんせん、残業時間が多すぎる場合です。当人としては「残業して頑張って、成果もあげているので文句ないでしょう。」と考えているかもしれませんが、その人の下で働くスタッフがいたら、かなりストレスをためている可能性があります。

タイプ4~6は、成果は「そこそこ」のスタッフが分類されます。

「日中だらだらと仕事をして遅くまで残業し、結局、成果はそこそこ」という、会社にとってありがたくないスタッフはタイプ6に分類されます。

それでは、各タイプのスタッフを、どのように評価していけばよいでしょうか。

仕事の成果をどう測るかがポイント

前項では、スタッフを成果と労働時間(残業時間)でタイプ分けしました。

ここで労働時間(残業時間)は、通常の会社であれば把握・集計は容易でしょう。

一方、問題になるのは成果をどう測るかです。

営業系の部門ですと売上などの数値が思い浮かびますが、それ以外の部門となると、どう考えてよいかわからないという会社も少なくないと思います。

ここが、明確になっていないと、「成果/労働時間」という形になる生産性もあいまいになってしまい、誰をどう評価するべきかがわからなくなってしまうのです。

さて、当社が提唱する「中小企業向け シンプルな人事評価制度」では、スタッフは、

・会社の戦略として全社一丸となって追い求める「戦略指標」
・会社全体の戦略指標値を改善するために各部門が貢献できる「先行指標」

の値を改善すべく、日々の業務を行うことになります。

そして、労働生産性の分子である成果としては、これらの指標値の改善度合いを用いるのがよいと考えています。

成果の測り方さえきちんとルール化できれば、これまでモヤモヤしていた残業に対する評価方法は、視界が開けてきます。

みなし残業代制(固定残業代制)がおすすめ

「成果」と「労働時間」が把握できれば、各スタッフの労働生産性が見えやすくなります。

その上で、納得性の高い残業代の払い方として、当社としては、みなし残業代制(固定残業代制)をおすすめしています。

仮に月当たり20時間の残業代をみなし残業代として支払うことにします。

また、成果(戦略指標・先行指標の改善度合い)は昇降給や賞与に連動させるような人事評価制度が導入されているとします。 このとき、各タイプのスタッフの待遇等は次表のようになります。

労働時間(残業時間)
〇 ほぼ0  △ 20時間程度  × 著しい残業 
成果 〇 大きな成果 【タイプ1】
・基本給+みなし残業代
・大きな昇給や高賞与期待
・早く帰れる


【タイプ2】
・基本給+みなし残業代
・大きな昇給や高賞与期待
・タイプ1ほどは早く帰れない
【タイプ3】
・基本給+みなし残業代+超過残業代
・大きな昇給や高賞与期待
・早く帰れない
本来は、こうならないように上司等がマネジメントすべき。
△ ある程度の成果 【タイプ4】
・基本給+みなし残業代
・大きな昇給や高賞与は期待しにくい
・早く帰れる


【タイプ5】
・基本給+みなし残業代
・大きな昇給や高賞与は期待しにくい
・タイプ4ほどは早く帰れない
【タイプ6】
・基本給+みなし残業代+超過残業代
・大きな昇給や高賞与は期待しにくい
・早く帰れない。
本来は、こうならないように上司等がマネジメントすべき。

タイプ1と2は、基本給とみなし残業代をもらうことになるとともに、大きな成果を上げているので昇給や高賞与が期待されます。

違いは、タイプ2と比較して、タイプ1は早く帰宅できることです。

みなし残業代制が導入されていないと、タイプ1には残業代が出ないのに対してタイプ2には残業代が出ることになるので、「時間を掛けたほうが得」ということになり、冒頭の社長のお悩み「日中だらだらと仕事をして遅くまで残業している人のほうが、集中して仕事をこなして定時で退社する人よりも、給与が多くなる(残業代によって)のはおかしい。」

どおりになってしまいます。

一方、「残業を多くしている人のほうが、難易度の高い案件に取り組み、会社にとって成果を上げている場合も少なくありません。」というお悩みに関しては、タイプ2とタイプ4の比較に帰着できそうです。

タイプ2のスタッフは残業してがんばった結果、昇給や高い賞与が期待できるのに対して、タイプ4は早く帰るかわりに、大きな昇給や高い賞与は期待しにくいという形に整理できます。

これは、もちろん、どちらがよいというわけではありません。ここで重要なのは、両タイプともにメリット(デメリットも)があり、納得しやすい制度であるということです。

育児等が忙しい時期であればタイプ4の働き方を選択し、育児等が一段落したらタイプ2のような働き方に変更するという人もいるでしょう。これは、各自が重視するポイントに応じた柔軟な働き方が可能な職場とも言えます。

このように、「中小企業向け シンプルな人事評価制度」と「みなし残業代制」を併用することで、多くの職場の残業に関する不公平感は解消できるのではないかと考えています。

なお、タイプ3・6では、理論上は、みなし残業代を超える残業代が出ることになりますが、本来、そのような著しい残業が発生しないよう、上司等はきちんとマネジメントをする必要があります。

Answer: 「中小企業向け シンプルな人事評価制度」を使って労働生産性で評価しよう。

冒頭の質問に対する回答としては、

  • 残業するから評価、しないから評価というわけではなく、労働生産性(=成果/労働時間)を軸に評価を行うとよい。
  • 成果としては、「中小企業向け シンプルな人事評価制度」における「戦略指標」や「先行指標」の値の改善度合いを使うと整理しやすい。
  • みなし残業代制を導入することで、納得しやすい制度を構築することができる。

となります。