戦略指標の利点は社内の各部門が共通で使えること
「中小企業向け シンプルな人事評価制度」を作成する際には、売上ではない、会社の戦略として全社一丸となって追い求める「戦略指標」を探すことが第一歩となります。
そして、戦略指標には、次のような性質が求められます。
- 指標値を改善させようとするとおのずと戦略が実施されること
- 社内の各部門が共通で使えること
- 計測可能であること(できれば計測しやすいこと)
ここでは、 二番目の「社内の各部門が共通で使えること」という点について考えます。
掛け算になっていることがポイント
当社がおすすめする戦略指標の基本パターンは、
基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の数
= お客さま総数 × 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の割合(基準ラインクリア率)
となります。
戦略指標の基本パターンをみると、「お客さま総数」という営業部門が主に追い求める数値と、「基準ラインクリア率」という開発、生産、提供部門が主に追い求める数値の掛け算となっています。
このため、各部門がそれぞれの立場からこの指標値を改善することが可能です。
つまり、お客さま総数が増えなかったとしても、開発・生産系の部門としては、商品やサービスの質を高めることを通じて基準ラインクリア率を高めれば、戦略指標値を改善させることが可能です。営業系の部門としては、お客さま総数を増やすことができれば、価値基準クリア率が一定だったとしても戦略指標値を改善することが可能です。
戦略指標は「お客さま総数」と「基準ラインクリア率」の掛け算の形になっていることには、別の意味もあります。
誰でもいいからお客さま総数を増やそうとすると、自社の商品・サービスに価値を見出さないお客さまもが増えてしまう可能性があります。
たとえば、指導は厳しいけれど、TOEICの得点大幅アップに定評がある英会話教室において、営業部門が売上をあげるためにとにかくお客さまを集めようと考えると、「英語は全く自信がないけれど、気分転換のために週一回英語に触れたい」というお客さまを教室に入れてしまうかもしれません。
しかし、お客さまに享受していただく価値の基準ラインが「TOEIC得点を730点以上にする」ということだったとすると、おそらくこのお客さまは基準ラインクリアには至らないと考えられます。
戦略指標は「お客さま総数」と「基準ラインクリア率」の掛け算なので、このようなお客さまをどんなにたくさん集めてきても、戦略指標値はまったく改善されないことになります。
となると、営業担当者にとっては、むやみに誰でもいいから客をつかまえることは得策ではなく、お客さまが求める価値をしっかりと見極めて、適切なお客さまにアプローチするということが必要になってきます。適切な戦略指標を設定することで、戦略に沿わない行動を極力制限する効果が生まれるわけです。
つまり、
基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の数
= お客さま総数 × 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の割合(基準ラインクリア率)
という戦略指標であれば、
- 各部門がそれぞれの立場からこの指標値を改善することが可能
- 戦略に沿わない行動を極力制限することが可能
と言えます。
部署間の対立を戦略指標で解消しよう
さらに、社内の各部門が共通で使えるということは、部署間の対立を和らげ、各部門が同じ方向を向いて力を合わせやすくなるというメリットがあります。
多くの会社では、営業部門と、開発・生産・研究部門は対立しがちです。
営業部門はできるだけたくさん売りたいので、他社商品よりも優れていてかつ安い商品を開発してほしいと思いがちです。また、売上をあげるために大幅な値引きをしたり、(開発・生産部門からすれば)無理な納期を約束してきてしまうかもしれません。
一方、開発・生産・研究といった部門では、「営業が適当なことを言って受注してきた尻拭いを、なんで自分たちがしなくてはいけないんだ」などと思いがちです。
そのような対立が起こる主な原因は、実は人事評価制度にあります。
対立が起こる職場では、おそらく営業部門は、売上高(もしくはそれに準ずるもの)で評価されているはずです。
売上高で評価されているからこそ、大幅な値引きをしたり(受注できずに売上が0になるよりは、値引きによって赤字になるとしても少しでも売上になったほうがよい)、無理な納期を受け入れたり(この納期でやると言わないと他社にとられてしまう)してしまうと考えられます。
多くの会社では、多かれ少なかれ人事評価制度が導入されていると思いますが、特に営業部門に関しては、インセンティブや歩合といった名目で、売上をあげるとダイレクトに給与があがるような制度となっているケースも多いでしょう。
特に、「四半期に○○万円の営業目標を達成したら△△万円のインセンティブ」などといった制度の場合、多くの営業部員はなんとか営業目標を達成しようとします。
営業目標達成に向けて努力すること自体は必ずしも悪いことではないと思いますが、どうしても売上をあげることに固執し、大幅な値引きや、無理な条件での受注が発生しやすいと言えます。
社内の他部署の負担・犠牲の上に営業目標を達成し、営業部が「目標達成した! 今夜はパーっと飲むぞ!!」などと盛り上がっている一方で、他部署はしらけていたり、営業部への憎悪を抱くといった状況は、決して健全なものではないでしょう。
これに対して、
基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の数
= お客さま総数 × 基準ラインを超えて価値を享受していただいたお客様の割合(基準ラインクリア率)
という戦略指標であれば、営業部ががんばって(適切な方法で)お客さまを増やしてくれたら、会社全体が目指している戦略指標値の改善につながるので、他部署員も素直に喜ぶことができるはずです。
さらには、自分たちも基準ラインクリア率を高めるよう努力しようと思うかもしれません。
このように、戦略指標をうまく設定することで、部署間の対立という、多くの会社で起こりがちな問題も解決・緩和することが可能です。
ユアスト 江村さん
お客さま総数 × 基準ラインクリア率 のパターンを使って、指標値の改善を全社員が喜べるような戦略指標を探しましょう。
まとめ
- 戦略指標の基本パターンは、「お客さま総数」という営業部門が主に追い求める数値と、「基準ラインクリア率」という開発、生産、提供部門が主に追い求める数値の掛け算となっているため、以下のようなメリットがある。
①各部門がそれぞれの立場からこの指標値を改善することが可能。
②戦略に沿わない行動を極力制限することが可能。
③部署間の対立を和らげ、各部門が同じ方向を向いて力を合わせやすくなる。