コラム

your strategy, your life

コラム

published 2023.04.17 / update 2023.04.17

売上自体を目標にするのは危険

売上自体を目標にするのは危険

「中小企業向け シンプルな人事評価制度」においては、全社一丸となって追い求める「戦略指標」を設定することになりますが、戦略指標として「売上」をとりあげることはおすすめできません。

ここでは、その理由について整理したいと思います。

売上を目標とすることの弊害

社長が従業員に対して「売上をあげろ」と指示する場合、社員にはいろいろな手段が考えつきます。

たとえば、

  • 自社の商品・サービスの価値を丁寧に顧客に説明して、購入してもらえるように営業する 
  • 大々的に広告宣伝を行う
  • 競合他社製品よりも安くなるように大幅に値下げする
  • 知り合いに頼み込んで買ってもらう(場合によっては自分で買う)

など、合理的なものから非合理的なものまでいろいろな手段が考えられます。

仮に、この会社の戦略が「モノづくりにこだわり、価格は高くとも高品質の製品を提供する」だった場合、戦略をしっかりと覚えている営業担当者であればきちんと高い品質を訴求するでしょうが、戦略を忘れてしまっている営業担当社員は目先の売上をあげるために大幅な値引きをするかもしれません。

その結果、利益が減少して高品質の製品を開発・提供するための資金がなくなり、戦略が実行されないことになりかねません。

これは、戦略を忘れてしまった社員が悪い面もありますが、「売上をあげろ」という指示にも大きな問題があります。つまり、「売上をあげろ」という「アバウト(おおざっぱ)」な指示では、戦略に沿わない行動を誘発する可能性が高いということです。

「売上をあげろ」という指示が、社会的に大きな問題となってしまったのが2019年に明らかになったかんぽ生命による不適切な保険商品の販売です(明確に指示されたかはわかりませんが、少なくとも人事評価制度を通じて間接的な指示はあったと考えられる) 。

具体的には、かんぽ生命の営業員が、高齢等で認知機能が低下している方を含む顧客に対して無理やり保険を売りつけたり、顧客を誤解させるような説明を意図的に行い、顧客が望んでいない内容の契約をさせたりしていたとのことです。

このような営業員の行動は言語道断ではありますが、こういった行動を誘発した組織の人事評価制度にも大きな問題があるでしょう。 2019年12月に金融庁は、業務停止命令及び業務改善命令を出しており、一定期間にわたり保険商品の募集や契約締結の停止を求めていますが、その中で下記のとおり「態勢上の問題」にも触れています。

①過度な営業推進態勢<br>営業目標として乗換契約を含めた新規契約を過度に重視した不適正な募集行為を助長するおそれがある指標を使用し続けた上に、経営環境の悪化により、営業実績が振るわないことが想定されるにもかかわらず、具体的な実現可能性や合理性を欠いた営業目標を日本郵便とともに設定してきたこと。

出典:金融庁 関東財務局 日本郵政グループに対する行政処分について 令和元年12月27日
 ユアスト 江村さん

ユアスト 江村さん

厳密にいえば、かんぽ生命の営業員は売上自体というよりは、契約を求めていたと言えますが、ここでは広い意味で売上を求めていたと捉えて議論を進めます。

適切な戦略指標の設定が重要

では、かんぽ生命のケースでは、どのような人事評価制度にしておけばよかったのでしょうか。

そのためにはかんぽ生命の戦略が大前提となります。

「かんぽ生命保険 中期経営計画(2021年度~2025年度)」によれば、「信頼回復に向けた取組みの継続」として、

・適切な募集プロセスのもと「お客さまがご納得・ご満足の上で保険サービスをご利用いただく」活動を展開
・お客さまへの丁寧なアフターフォローを通じた信頼関係の再構築

出典:かんぽ生命 中期経営計画(2021年度~2025年度) 2021年5月

などの取り組みを掲げています。

これを踏まえると、

「商品のコンセプトを理解し、納得して保険商品を利用していただいた方の数」

などといった戦略指標が考えられます。

営業員は、売上ではなく、この指標値を改善することで評価されるようになるので、お客さまにとって不利益な商品を無理やり契約させることもないでしょうし、難しい保険商品の内容をできるだけわかりやすく説明しようとするかもしれません。

それによって、お客さまは、自分自身の保険ニーズを見極めた上で、自分にあった保険商品を利用できるようになり、保険の価値を享受できるようになるはずです。

また、戦略指標は計測できることが大前提ですが、丁寧なアフターフォローを行うということですので、アフターフォロー時に、お客さまに対して「商品のコンセプトを理解して、納得して利用したか」といったことをヒアリングすることで、戦略指標値を計測することが可能になるはずです。

そのような取り組みを地道に続け、「商品のコンセプトを理解し、納得して保険商品を利用していただいた方の数」という戦略指標値が改善してくれば、かんぽ生命の信頼も回復してくるのではないかと考えます。そして、それはやがて売上アップにつながってくると考えられます。

このように、従業員が戦略に沿った正しい行動をできるようにするために、「売上をあげろ」というおおざっぱ指示ではなく、適切な戦略指標を設定することが重要です。

これは、お客さまと従業員を守ることにもつながります。

まとめ

  • 売上はたいていの企業が目指すものには違いないが、それ自体を目標にしてしまうと、従業員が思い思いの方法で売上をあげようとしがちである。結果として、戦略に沿わない行動を誘発しやすい。
  • しっかりとした戦略をたてよう。そして、従業員が適切な方向にがんばれるような戦略指標を設定しよう。